2006年 09月 02日
近代の五弁花 その1
18世紀に大流行した五弁花の器たちですが、唐草模様などが連綿と時代を超えて描かれ続けたのに対して、五弁花はその後廃れ、近代以降は量産食器の世界でほとんど忘れられました。ところが、昭和になってどうやら再び小さな流行があったのではと思います。ゴム印で付けられた五弁花の器が海岸から時々出てくるのです。江戸の雑器の五弁花の多くが、潰れて元の形も判らないものが多いのに対して、ゴム印五弁花たちは、丁寧で美しい五弁の花を咲かせています。
江戸の五弁花は手描きの他に、コンニャク判と呼ばれるスタンプが多かったのですが、近代になり、量産食器が型紙や銅版を使って絵付けをするようになると、この単純なデザインはもの足らなかったのでしょうか。そう考えれば、ゴム印による絵付けは、基本的にはコンニャク判に近いわけで、五弁花が復活したのも自然なことかもしれません。もしかしたら、大正末期からの、柳宗悦らの民芸運動なども、どこかで影響して、古いデザインが好まれるようになったのかもしれません。無数に作られた量産食器、どんな模様だってあっても不思議は無い。いちいち追いかけることなど無理では・・・と思えますが、不思議なことに、海岸から出てくる陶片たちには、ある程度の類型があるんです。どんなものを作っても良かったのに、一定のパターンがあることに人間は安心を感じるのでしょうか。ゴム印の五弁花を通して、おもしろいけれど果てしも無い、近代量産食器のジャングル?が垣間見えます。
ここではゴム印の五弁花を取り上げましたが、実は近代五弁花には手描きのものもあります。ゴム印タイプと違って、細かい年代がわかりにくく、中には江戸の五弁花と、昭和のゴム印五弁花の間を時代的に繋ぐものも混じっているかもしれません。またゴム印とは違う特徴もありますので、次回取り上げようと思います。